定年後に幸せはあるの?日本人が避けてきた「老病死」を考える【前編】

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前編「不幸の定義は自分で作っているのかもしれない」

大乗山経王寺住職・互井観章×エンディングコンシェルジュ・池邊文香

定年後に幸せはあるの?日本人が避けてきた「老病死」を考える【前編】

池邊文香(以下、池邊):定年退職や子育てを終え、新しく人生を歩み出す時に大切なことは、年を重ねることを受け入れながら「よりよい暮らし」を見つけることだと思っています。ただ、今の日本では「老病死」のマイナス面が目立ち、対策ができないまま直面した時には不安・混乱・諍いにつながることも。そうならないために「つながり」や「絆」などの支え合いが重要視されています。

互井観章さん(以下敬称略、観章):「つながり」や「絆」などの言葉がブームですが、私はこの言葉があまり好きではないんです。もうすぐ60歳になりますが、私たちの世代は「老病死」を避けて、古い共同体を捨て、核家族化を進めてきた世代です。その世代がここにきて、急に「つながり」「絆」って言われても困ったなぁという感じです。

池邊:たしかに「つながり」「絆」などの言葉を声高に言うのではなく、「老病死」に関係ある人を知り、目を背けずに見つめてみる。そこから自分自身や大切な人の老病死についても考える。エンパークではそんな一助になれたらと思っています。そのあたりを、僧侶であり後見人もされている観章さんにお話を伺いながら考えたいです。

日本人は自分と向き合うことを避けてきた。本当に気持ちを表すことがヘタですよね。

池邊:人生100年時代、長寿国家と言われて久しいですが最近、50代以上の方から「生きている意味がわからない」「長生きしたくない」といった声が聞こえてきます。ただその反面、自分にもやれることがあるんじゃないかと「やりがい」や「生きがい」を探しておられる方も多い。そんな方たちの一助になりたいという気持ちで「エンパーク」を発信していますが、根本的に「生老病死」を考えていない、イメージできていない方が多いかもしれないという印象があります。

観章:「生老病死」の問題は、結論から言っちゃうと、日本人がみんな向き合ってこなかったことにあります。特に私たち仏教者ですらも、ずっと老いや死から目を背けてきました。ところが、阪神淡路大震災と東日本大震災を体験して考え方が一気に変わりました。

池邊:それは葬儀お墓に関わる仕事をしてきた私も感じました。辛い出来事に直面すると、自分と向き合う場面が多くなりますよね。

観章:戦後の復興、高度経済成長、そしてバブル景気。私たちは、明るく夢と希望に満ちた幸せな未来が来ることを疑っていませんでした。自分に向き合うことなど考えず、欲望に邁進していったのです。それが脆くも壊れたのが阪神淡路大震災と東日本大震災でした。このことをきっかけに、人生の迷子になってしまった人も多いのではないでしょうか。

池邊:そうですね。いまだ解決していないことも多いですし。

観章:自分の人生がうまくいかないことや、今抱えている苦しみや悲しみは、社会の誰かのせいだと考える、そう思っている人が意外に多い。政治家への支援や神頼みが廃れないのも、自分の人生を見つめて自分を変えていくことをさけてきた証拠です。

池邊:それも強く感じます。

観章:自分を変えずに幸せを求める。そんな人たちに新興宗教や占いが忍び寄ってくる。政治もそうです。この数珠を持つと幸せになる、玄関に水晶を置くとお金が儲かる、私たちの政党がみなさんを幸せにします、とか。ちょっと考えればおかしいと思うことも、そこに賭けてしまう人が多いからインチキ宗教もどきはなくならない。しかも自分を見つめることもできない。辛く苦しいことは避けたいんです。政治家や教祖様のいうことを鵜呑みにしている方が楽なんですよね。

対談「定年後に幸せはあるの?」

池邊:与えられた環境で自分が気持ちよく過ごすためには、だんだん言いたいことを言わなくなる、考えなきゃいけないことを考えなくなる、という感じですね。

観章:自分はこうしたいという意見があるはずなのに、それを抑えないとその環境の中で生きていけなくなる。環境というのは、会社、家族、地域、学校、社会に当てはめてください。今は家族間でも気を使って言いたいことを言わなくなっていますよね。

池邊:家族間は可視化できないから一層ややこしい気がします。

観章:そんな中で大災害などの理不尽なことが起こると、今まで自分や家族、そして社会と向き合うことを避けてきた日本人が、いきなり自分と向き合わざる得なくなったわけです。だけど、向き合う方法を知らないから、訳が分からなくなってしまっている…というのが今の日本だと思います。

池邊:そこにメディアが追い討ちをかけて「終活」だ「人生100年」だと煽ってくると・・・。生き方を考える機会であるはずが「手続き」や「お金」など対処法に視点が向かってしまう。供養文化も産業化されていますしね。

観章:聞きかじったことに踊らされ、あれもしなきゃこれもしなきゃって。延命治療の賛否とか、お墓がいるのかいらないのかとか。どんどん変な方向へ話がいってますよね。結局、日本人は自分と向き合うのをずっと避けてきた国民であり、自分の気持ちや思いを外に出すのがすごくヘタなのですよ。

心の中で「自分会議」をすると、自分でも気付かなかった思いにたどり着くことができますよ。

池邊:自分じゃコントロールできないこと、例えば、事故や病気、老いなどが発生した時には心構えがない多くの人はパニックになってしまいますよね。それだけじゃなく、精神的に病んでしまうケースも多い。それは気持ちを吐き出す場所、相談する場所がないことも原因かもしれないと感じています。自分自身と向き合うと言えば、私の場合は仏壇が大きな役目を果たしてくれているなと思っています。

観章:なるほど。でも今の生活環境で家の中に仏壇を安置するのは物理的に難しい方も多いよね。

池邊:そうですね。田舎だったこともあり、小さな頃から仏壇の向こうにはご先祖様がいると言われて育ちました。手を合わし、向こうにいる祖父や叔母にいろいろな報告すると、心がリセットされる感覚になります。お墓まいりも同じです。振り返ってみると、お仏壇に手を合わすことで、自分の内生と向きあっているのかなと思いました。

観章:それは少し意識を変えるだけで、仏壇じゃなくてもできるかもしれないよ。例えば、駅までの道のりに自分の好きなお寺や神社があって、そこでお参りするだけでいいと思う。ちょっとしたリセットができる場所を持っていると、すごく心安らかになりますよ。そんな風に迷いもなく手を合わせてもらうために、お寺や神社はあると思って欲しい。

対談「定年後に幸せはあるの?」

池邊:自分をリセットする場所をつくる。確かに、1日の中で何の利害関係もない時間をつくることは、自分と向き合うことに繋がりそうです。

観章:現代人は忙しすぎるから、あえて自分と向き合う時間を作るトレーニングをしないとなかなかできないと思うよ。だから慣れるまでは無理矢理にでも考える時間をつくらないと。「この問題どうするかな」とか「友達が病気になったけど俺だったらどうするかな」とか「家族にはどうやって話そうかな」とか、仕事とは違うことを考える時間が必要だよね。

池邊:現代人はそういう時間の作り方も下手な人が多いですよね。

観章:僕は自分の心の中で会議を開きます。「自分会議」と呼んでいますけど、自分自身ともう1人の自分が向き合って会話するイメージです。すると自分でも気付かなかった思いにたどり着くことができますよ。

池邊:自分のことをわかっていないと、家族や周囲とも向き合うことができませんよね。だから意思疎通ができなくてイライラしてしまう人が多いのかな。嫌だとか苦しいとか辛いとか、家族にストレートに言えない人が多いように感じるのもそのせいかもしれませんね。

観章:自分と上手に向き合うことができない人が、「生老病死」の「病」や「死」に正しく向き合うのは難しいですよ。

池邊:私は葬儀の相談員をしていたのでたくさんの「死」に直面した人と向き合ってきました。東日本大震災時には理不尽な別れをした遺族の相談を受けた時には、心が張り裂けそうになりながらも「生老病死」に向き合う大切さを痛烈に感じました。辛く苦しい別れがあったときどう向き合うのか?どうやってその後生きていくのか?そんな本当に必要なことを全く教えてもらってきていない、学校でも習わなかったんです。でも、自分と向き合う訓練からスタートし、今から学んでも遅くないですよね。

「幸せ」という幻に振り回されて「不幸」を自分自身で作って苦しんでいるのかも。

観章:僕は「ハピネス観章」と自ら名乗って「幸せレッスン」なんてお話ししていますが、実は心の底では「幸せなんてないよ」と思っています。

池邊:観章さんらしい(笑)。というと?

観章:「ハピネス観章」として日々の一言法話をSNSにあげていますが、日本人は「幸せ」という言葉に本当に弱いよね。みんな誰しもが「幸せ」を求めている。むしろ「幸せ」を探し回って生きている。なのに「幸せ感がない」ですよね。

対談「定年後に幸せはあるの?」

池邊:世界的に見ても幸福感が低いですよね。

観章:結局「幸せって一体何なんだ」と考えると、やはり幻だと思うのです。どこかに「幸せ」があると思うから生きていける。でも幸せって自分の欲望の具現化ですから、本当はそれに振り回されず生きていくことが、仏教の考え方なのだと思います。

池邊:みんな「幸せ」という定義に大いに振り回されていますね。

観章:もっとお金があればきっと「幸せ」になれる、もっと違う病院に行ったら病気が治って「幸せ」になれる、今ここじゃないどこかに行けば「幸せ」になれる…という感じ。たまたま私は今そこにいないから「不幸だ」という考えです。つまり「不幸」を自分自身で作って苦しんでいるんじゃないかなと。

池邊:周りと自分を比べたり、同じでなければ劣等感を感じたり。

観章:そう。「幸せ」なんて幻なのです。それを手に入れたら、また次の「幸せ」が現れる。それは本当にあなたの「幸せ」なの?と問いたい。「誰かが決めた幸せ」をずっと追っかけているかもしれないよって。政治家にもいるよね。古い価値観を捨てられない人。それ、もういい加減やめようよ、と声高に言いたいのです。

池邊:そうだ、やめよう!結婚したら「幸せ」になれる、出世したら「幸せ」になれる、大きな家を建てたら「幸せ」になれる…というヘンテコな定義を日本はずっと追いかけてきましたよね。それに踊らされ、今ここじゃないもしもの自分を探してしまうから、苦しく感じてしまうのかも。

観章:だから「幸せ」を見失ったら病んでしまうんですよ。「誰かが決めた幸せ」を追っかけるのをやめた途端、楽になるからやってみてほしい。

対談「定年後に幸せはあるの?」

池邊:入居金3000万の老人ホームが「幸せな老後」のように描写されている広告や特集が減ることがなく、ビックリしています。買える人はいいですけど、買えない人が圧倒的に多いご時世で、老後もお金があることが「幸せ」だという雰囲気が信じられない。そんなものを乱立させて何が楽しいのかと思っています。

観章:知り合いにもいます。子供のいない80歳前後のご夫婦なのですが、都内の一等地の一軒家を引き払って2人で海が近くて温泉もある老人ホームに入るそうなんです。それこそ入居金数千万円、毎月の生活費が20〜30万円もかかる。それまで一生懸命働いて貯めたお金だから自分の好きにすればいいけれど、もしもその場所が合わなかったらどうするのかと少し心配になります。

池邊:ほんと、すごい一大決心ですよね。

観章:ここは終の住処ではなかった、住みにくい、嫌だ、となる場合もおおいにあり得る。今まで一軒家で暮らしていた人が、マンション形式だと言っても共同生活できるのか。そう考えると、どういう生き方、暮らし方、考え方が残りの人生を幸せにするのかを検討しなければいけないと思うのです。

池邊:それなら都会のマンションの方がいいかも。そんなにお金があるなら、家政婦さんやヘルパーさんを雇えば自宅で過ごせますよね。病院だって都会の方が多いですし。

観章:その便利さやコミュニティーを捨ててまで選んだ理由を伺うと、結局はご主人が良かれと思って独断に近い形で決めたとのこと。このご夫婦の残りの人生で、この選択が幸せな選択なのかを検証もせず、入所者の話を聞くこともなく、お金の使い方のコンサルも受けてない。業者の思うツボで本当に恐ろしい。引越し先で納得のいく時間を過ごしていただきたいと願うばかりです。

池邊:誰かが意図をもって作った「幸せ」に飛びついたり、「成功神話」を追い求めた先に、人生の終盤で「こんなハズじゃなかった」と思いたくないですよね。

※<後編>へ続く

(取材・文章:ライター たなべりえ)

対談者プロフィール

互井 観章(たがい かんしょう)さん
日蓮宗 大乗寺経王寺 第28代住職


互井観章さん

北里大学獣医畜産学部畜産学科卒業後、アメリカの牧場で酪農に従事。帰国後、出家し僧侶に。1598年開創「大乗寺経王寺」第28代住職。「お寺はあなたの心の診療所」をモットーに、映画会やコンサート、一日修行、法話会などのイベントや行事を積極的に行う。一般社団法人仏教情報センターの相談員を20年以上務めるなど、宗派の枠を超えた僧侶との幅広いネットワークを築いている。定期開催されている仏像の話やお経のワークショップも人気。ニックネームはハピネス観章。

池邊文香(いけべあやか)
エンディングコンシェルジュ、「エンパーク」プロジェクトリーダー




関西大学社会学部マス・コミニュケーション学科卒。大学在学中にアクトインディ株式会社のインターンとなり卒業後に入社。その後、子会社として分社したせいざん株式会社の取締役となる。青山外苑前の実相寺「青山霊廟」納骨堂の管理運営、葬儀・お墓・弔い関する講師としても活動。「大人のためのbetter lifeマガジン エンパーク」のプロジェクトリーダー。その他、地域創生や寺院支援事業など多方面に渡って活躍中。

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