定年前後に見直したい保険のこと

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生命保険には、医療保険や年金保険など、種類も多く、難しいイメージがあります。そのため、いざ「入ろうかな」「見直したいな」と思っても、なかなか重い腰が上がらず、放置してしまいがち。

しかし50代〜60代のミドル・シニア世代は、定年退職や子どもの独立、住宅ローンの完済など、生活環境やライフスタイルが大きく変化する方も少なくありません。

生活が大きく変わっても、働き盛りの頃や、子どもの教育にお金がかかった時期と、同じ保険のままで良いのでしょうか。

そこで今回は、定年世代の保険の選び方や注意点などを、フィナンシャルプランナーに聞きました。

保険は相続問題を解消する!?

定年退職を迎えた場合、年金暮らしで高額な保険料を支払い続けることは難しくなる方もいます。

また、子どもが独立したり、住宅ローンが完済したのであれば、一家の大黒柱にかけていた生命保険の役割は一段落します。50代〜60代のシニア世代の方の場合、解約や見直しが多いイメージですが、新たに保険に入るケースもあるのでしょうか。

「ご契約をお持ちでない方には、終身保険をご提案しています。なぜかというと、相続対策に活用することができるからです。相続と聞くと、『うちは財産なんてないから関係ない』と思う方が多いのですが、人間は何も残さずに亡くなることはできません。

それを引き継ぐのが相続です。法律上、引き継ぐ権利がある人を法定相続人と呼び、多くの場合財産は、法定相続人が引き継ぐことになります。しかし生命保険金は、受取人の固有の財産であるため、確実に保険契約上の受取人に支払われます」

保険は、法定相続分通りに分配すると相続できる金額が少なくなってしまう相続人や、法律上相続する権利のない人に、一定の金額を渡したい場合にも活用できます。

「また、相続するには相続税がかかります。相続する財産が基礎控除額以下なら相続税はかかりませんが、2015年から相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられ、相続税がかかるケースが増えました。

しかし、生命保険には『500万円×法定相続人の数』という相続税の非課税枠があるので、相続人が受け取る生命保険金は、非課税限度額までは相続税がかかりません。つまり、配偶者と子ども2人が法定相続人の場合、『500万円×3=1,500万円』までは相続税がかからないということになります。ただし、契約者と被保険者が異なる場合は、税制が変わりますので注意が必要です」

終身保険は、保険の対象となる人(被保険者)が死亡、もしくは高度障害状態になった際に、保険金受取人に保険金が支払われる保険です。保険期間は一生涯。掛け捨てではなく、長期的な保障に加え、貯蓄性のある保険なので、銀行に預金する感覚で始められます。

まずは、財産がどれくらいあって、誰に残したいのかを考えてみましょう。財産を残してあげたい人がいて、すぐに使う予定のない纏まったお金があるのなら、終身保険に入っておくのもひとつの手です。

年金保険や介護保険は必要?

最近は、国から支払われる公的年金の支給開始年齢が上げられたり、支給額が減らされるという危機感を持つ人も少なくありません。老後の備えとして、民間の保険会社が運営している年金保険に入っておいた方が良いのでしょうか。

「年金保険にもいろいろありますが、単純にお金を積み立てる貯蓄目的の保険の場合、死亡保障がついていないことが多いです。死亡保障がついていない保険は、年齢が上がってから入っても、支払額は若い頃とそんなに変わりません。

30歳から始めて60歳からもらえる年金保険金と、40歳から始めて70歳になってからもらえる年金保険金は、同じ30年ならほぼ変わりません。

でも、50歳から始めて70歳からもらおうと思うと、払う期間が短くなる分、毎月支払う金額が上がります。とは言え、50代、60代になって年金保険に入るのは、あまり得策とは言えません」

銀行に貯金するのとあまり変わらないからでしょうか。

「短期間に出し入れするようなお金を預けるには銀行。車や旅行、教育資金などに使うような中長期的なお金は、多少運用して、良いときはプラスの効果が期待できますし、マイナスになれば計画を少し縮小すれば良いので証券会社。

夫婦の老後や、女性の方が寿命が長いので、奥様の老後に備えるなど、長期的なお金は保険が合っています。しかし、50代、60代になってから年金保険をかけ始めるのでは、今は金利が安いため、保険にするメリットが充分に発揮できないからです」

長寿高齢化に伴い、近年では徐々に公的介護保険で給付を受けられる条件が厳しくなってきています。介護への備えとして、民間の介護保険に入ろうと検討している方も少なくありません。

「確かに介護保険は最近ニーズが高まっています。ただ、介護保険の多くは、年齢が上がれば上がるほど介護リスクが上がるため、高齢になってから入ると保険料負担が重くなります」

医療保険や入院保険は老後は必要ないって本当?

ケガや病気で手術や入院をしたときに備える、医療保険や入院保険についてはどうでしょうか。

「老後に備えて検討される方が多いのですが、医療保険や入院保険に入る際には注意が必要です。健康保険に入っていれば、70歳未満の人の場合、医療費の自己負担は3割ですが、高齢になるとともに1〜2割に軽減されます。入院や手術で高額な医療費を支払ったときは、高額療養費という制度を利用すれば、一定の金額を超えた分が払い戻されます」

例えば、70歳以上で所得が低い人の自己負担限度額は、月15,000円程度です。

「医療保険や入院保険は多くが掛け捨てです。毎月数千円を何年も払っていても、実際にはたまに通院する程度だったり、入院や手術をしても自己負担額がそこまで高額でなかったり、「入院は何日以上から」といった規定に即していないために使えないケースも少なくありません。

現状、入院は平均何日くらいさせてもらえるのか、国の社会保険はどのくらいの保障があるのかを確認した上で、保険を選ぶことが大切です」

使うか使わないか分からない保険に毎月数千円を払い続けるなら、同じ金額を銀行の定期預金にしておく方が、いざとなったら引き出せるだけでなく、掛け捨てでない分、損失は減らせます。

穏やかな人生が送れるならそれが一番です。「不安だから」「万が一のために」入るのが保険ですが、不安の度合いは人それぞれ。社会保険があることを知った上で、それでも不安が解消できないから保険に入るのなら良いですが、不安ばかりに目を向けて、知ろうとする努力をしないまま、知らずにお金を払い続けるのは避けたいものです。

定年後、保険は解約するべき?残しておくべき?

保険の見直しを進める上で、注意することはありますか。

「時々、『お宝保険』と呼ばれる、金利が高い地代の、予定利率の高い保険があります。せっかく『お宝保険』に入っていたのに、『返戻金が良かったから解約した』と言う方がいますが、もしかしたらそのまま置いておいた方が得していたかもしれません。相続税対策でお話したように、同じ300万円でも、預金で残すより保険で残した方が良いこともあります。なかなか判断が難しいのが保険です」

バブルが弾ける前は、銀行の預金につく利息は、今より高く設定されていました。この頃設計された保険に関しても、貯蓄性が高く、解約返戻率も良い商品が多かったようです。しかし一方で、住宅ローンなどを組む場合、借りた金額につく利息も高くなるというデメリットもありました。

「昔と今との金利の違いから、世代間のミスマッチが生じています。現在の50代〜60代以上の方の多くは、『学資保険は解約返戻率が良いからかけておいた方がいい』『住宅ローンは早く返した方がいい』と考えていますが、それは金利が良かった頃の話です。現在の学資保険の満期返戻率はあまり良いとは言えませんし、住宅ローンは、団体信用生命保険がついているので、必ずしも早く返す方がいいとは限りません」

よく、住宅ローンを定年退職金で払い終える人がいますが、これは良いのでしょうか。

「団体信用生命保険は、住宅ローンを借りた人が亡くなったり、高度障害状態になった場合に、残った住宅ローンを金融機関が支払ってくれるという死亡保険のようなもの。

だから他でわざわざ死亡保険に入るくらいなら、住宅ローンを残しておいた方が安く済む場合も多いです。また、借りたばかりの頃は元金が多いので利息も高くなりますが、終わりの方になるにつれ、ほとんど利息はつかなくなります。そのため、退職金が入ったからと言って、急いで返すことは得策とは言えません」

完済するかどうかは、そのとき必要な生活費や貯金額、残債や利息がどれくらいになるのかを計算した上で、ゆとりを持って決めれば良いということですね。

その保険、定年後に本当に必要ですか?〜保険を見極めるポイント〜

保険選びや保険の見直しの際に注目するポイントは、

1.保険料の払込みはいつまでなのか
2.保険期間はいつまでなのか
3.加入後に保険料の変更があるか
4.掛け捨てか積立機能があるか

の4点です。

そして、健康保険、介護保険など、国の社会保険制度を確認しましょう。

「何歳になったらどんな給付が受けられるのか」「自己負担額がいくらくらいで何ができるのか」などの情報は、その年齢になって初めて得ようとする人がほとんどではないでしょうか。

「『これなら年金だけでやっていけそうだ』『このくらいの預金があれば子どもたちに迷惑かけない』自分の老後の資産や社会保険を確認した上で、『不足していると考えられるものがある』『それでも不安だ』となれば、民間の保険でカバーすれば良いと思います」

「不安だから」「迷惑をかけたくないから」と万が一を考えて入る保険だからこそ、「本当にないと困るものなのか」「求めているサービスが得られるのかどうか」を見極め、有効に活用したいものです。

やたらと将来の不安を煽ってくる場合には注意が必要ですが、「1人では決められない」「一度見直したい」という人は、お近くの保険代理店やフィナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

(取材・執筆:旦木 瑞穂)

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