【妙光寺】人間性を取り戻す場所、フェスティバル安穏(3/4)

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妙光寺(みょうこうじ)
新潟県新潟市西蒲区という過疎地域にある日蓮宗寺院。全国に先駆けて1989年に宗旨宗派を問わず、永代供養を約束し、跡継ぎの必要がない集合墓「安穏廟」をはじめた。

人が人らしく生きる場が安穏廟

住職になる気はなく、社会学を学び研究していた小川住職。人はどうすれば活き活きとするのか?という問題に対して自分なりの答えを持っていた。

人は人との関係性の中で自分の存在価値を実感できれば輝く。例えば他者と共通の目標を持ち、それを協力して達成する。

そうなると自分が人の役に立ったことの実感、やり遂げた達成感、感謝される幸福感が得られ、さらにそれらを分かち合うことができればより一層幸福感が増す。

しかし社会はどんどん経済性を指標とする時代となり、人とのかかわりも損得勘定で判断され、地域の助け合いなどに費やす時間もコストとして勘定されるようになっていった。その為、人々は次第に輝きを失い、孤立していった。

そんな時代に小川住職はフェスティバル安穏という仕掛けを作った。安穏廟を購入した人を中心に、その他ご縁のある人たちが毎年8月最終土曜日に妙光寺に集まり、送り盆を盛大に行うお祭りである。

生や死に関しての識者のシンポジウムや著名人と住職のトークセッション、子供向けの遊び、お酒や手作り屋台もあり、楽しいお祭りが境内で行われる。

日が落ちてくると、灯篭に火がともり、本堂や安穏廟のそばに立つ東屋などで読経が行われる。灯篭の灯がともる中で僧侶数十人が声をそろえて朗々と唱えるお経は何とも美しく、同時に特別な信仰心を持たない人間にとっても荘厳さとありがたみを感じる。


このフェスティバル安穏の準備は数か月前から始まる。プログラムを考え、その為の手配、灯篭など備品の調達や準備、会員さんへの連絡。

当然たくさんの人たち、業者さんたちと関わる。この際小川住職は、単純に仕事や役割を依頼するのではなく、コンセプトを伝え一緒に考えてもらう。

新しいコンセプトのお墓として取材に来た記者にも「色々なところを取材して見てきてるであろうから是非アドバイスください」と。 こうして関わった人たちを当事者として巻き込みながらフェスティバル安穏を創っていく。

開催数日前には、境内各所で掃除・設置・配線などが始まり、前日となると料理の仕込みなどもあって、まさにてんてこ舞い状態。 この準備段階で多くの人たちがほとんどボランティアで参加し、フェスティバル安穏をみんなで作り上げていく。

そして当日。妙光寺の檀家さんも、安穏廟を購入した人も、購入を検討している人も、業者さんも、その他の人々も、みんな一緒に先祖を、亡き人を心に浮かべ、送り火にそれぞれの想いを託す。

大切な人への想いという共通項を持った人々を一ヶ所に集め、協力し合ってその想いを形にするセレモニーを創っていく中で、人々は頼り、頼られ、感謝しあい、苦労や喜びを分かち合う。

この“人とのかかわり合い”が、日ごろの生活で失いかけていた輝き、人間性を取り戻していく。

学歴も職業も年収も何も関係ない、安穏廟を縁に妙光寺に集まった人々が、みな活き活きした表情で汗を流して自分の役割を果たし、フェスティバル安穏という盛大な送り盆のお祭りが完成する。

最後はお坊さんもボランティアも檀家さんも安穏廟の会員さんもみなごっちゃで夜通し飲みながら語らい、その喜びや充実感を分かち合い、また各地の日常へと戻っていく。


筆者も2010年、2012年の2度参加させていただいたが、何とも心地の良い体験だった。

無数の灯篭が整然と並んで幻想的な空間を作る中、全国各地から集まった僧侶が20名、30名という単位で、一斉に声をそろえて読経し、参加者それぞれの心の中に想う人を送ってくれる。

何とも荘厳で心地が良く、安らかで満たされる。その素晴らしい瞬間をつくるプロセスに自分もかかわれた事が本当に嬉しかった。


こうして参加した面々はその感動を誰かに伝えたくて、ついつい周りの人たちに目を輝かせて妙光寺での経験を話す。すると、それを聞いた人が来年は行ってみたい!とついてくる。

この連鎖によって、妙光寺は人が集まる場所となり、年々その数は増えていった。

お墓を売ろうとして作った仕組みではなく、当初の目的通り、人の役に立つことを追求しただけ。

小川住職曰く、お骨をおさめるためのお墓をという入れ物を作ったわけではなく、人が本当の人間性を取り戻すコミュニティを創ったのだと。

結果的に安穏廟は時代の流れで孤独化してしまった人々に認知、支持されどんどん売れていった。

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