【明神宏幸】自分の価値観を世に問うだけ(4/4)

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のこすかち

のこすかち」は、本当の価値とは何か?我々、今の時代を生きる人間が、次世代に「のこすべきもの」は何なのか?様々な視点から「のこすかち」を探してみたいと思いスタートした。

第一回目は、近年鰹の一本釣りで知名度を上げている明神水産株式会社(高知)の礎を築いた明神宏幸氏を取材させていただいた。

明神宏幸(みょうじんひろゆき)
昭和21年7月31日生
1986年明神水産専務取締役に就任。製造販売部を立上げ年商23億円にまで育てるも1996年解任。
同年土佐鰹水産株式会社を立上げグループ年商50億円にまで成長させるも2012年に倒産。
2013年明弘食品株式会社を立上げ現在(2016年11月)代表取締役。

亡き息子が残した価値を世界へ

かつおガーリック・レアステーキで農林水産大臣を受賞した際、その製法で国際特許を申請していた。

2013年8月、高知に戻っていた宏幸氏のもとに、国際特許の申請がいけそうだと特許事務所から知らせが届いた。

「息子の生きた価値を残したい。」再び宏幸氏が動き始めた。旧知の友、ジェトロの職員Hさんに相談すると、ジェトロの国際ビジネスマッチングサイトTTPPに情報を載せたらどうかと言ってくれた。

「こんな男でも友達と言ってくれる人間も10人ばあ(10人くらい)は残っちょったきよ」と笑う。

TTPPに掲載して間もなくベトナム水産輸出加工協会(VASEP)から「話を聞きたいのでベトナムまで来てくれないか?」と連絡が来た。行ってみるとベトナムで養殖されているナマズが200~300万トンもある。カンボジアまで広げたら500万トンになる。

「おらが命かけちょった鰹の10倍あるがよ」。日本の鰹の漁獲量は、巻き網も入れて25万トンほどだった。日本ではあまり知られていないが実は養殖ナマズは欧米を中心に世界中に流通している。日本でも白身魚のフライなどで提供されている。

しかし現在のベトナムの加工は、明神水産の初期と同様に、魚をおろして身を出荷するだけ。加工技術を磨いて、付加価値を付けて提供できるようになれば、収入も上がる。収入が上がれば、雇用も確保できるし、安全性も高められるし、安心して事業を続けていける。

そうすれば後継者も育てられる。自分がこれまでやってきたことが役に立つと確信した。

どんなえらい国でも食料がなかったら終わる。世界人口が増えていくなかで、食糧を供給できる国は絶対に尊敬される。

初めて訪れたその地で、VASEPの関係者に「このナマズの加工で自分の知識が役に立つならやりがいのある仕事になると思います。だから僕もがんばります。」と伝えた。

70歳、三度目の挑戦

現在、自宅の1階ガレージの一角をナマズの加工場にし、かば焼きやガーリックステーキなどベトナムナマズを使って試作を繰り返し新たに、ナマズ蒲焼製法やすり身加工に関する特許なども出願し、世界の食需要にこたえる安心安全で美味しく、生産者がきちんと事業を続けていける仕組みを構築しようとしている。

「日本でちゃんと売れるものをつくって、ベトナムで教えて。それだけの原料があって付加価値高めたらね。おらがもらうのは年金にちょっと足しになるくらいでいい。尊敬されることをやらないかん。自分のこれまでの経験が役に立ってベトナムが尊敬される存在になればうれしいよね。」

さらにこれにとどまらない。
明神水産でやり残したことがあった。当時23億の売上のうち8億円が通販だった。その顧客データは全国30万人におよんだ。この顧客リストを鰹たたきだけではなく、全国各地の頑張っている一次産品の生産者に活用してもらう仕組みを考えていた。

「通販で一番いいのは「大好評につき売り切れました」でいいこと。大手流通と取引すると、供給義務が出てくるやろ。だからだんだん・・・・。」

例えば「●●産の魚」といって販売しているが、実際は別の場所から持ってきて●●地域で一定期間いけすで飼っただけ。程度の差はあれどこの手の商品が多数出まわっている今の世の中。産地偽装も一時期流行り言葉の様に耳にした。

偽装じゃなく真っ当に提供しようとしても、量が増えれば設備投資が必要となり資金もかさむ。結果多くの場合借金が増える。そんな追い込まれて商売するのではなく、うそつかず、無理せず、リスクを少なくしてちゃんと利益をとれる方法で続けていけばいい。

無理なく続く仕組みになれば、田舎かから外に出た子供達も呼び戻せる。明神水産がもつ30万人の顧客データとノーハウをつかって、全国各地の一次産品生産者が無理なく豊かに暮らせる仕組みを創りたかった。

明神水産を追われ、この計画を実行できなかったことを宏幸氏は「息子を亡くしたことと同じくらい残念なことだった」と語る。

70歳の会社つぶした爺さんでもやる事やれる事はいくらでもある。宏幸氏は三社目の明弘株式会社で挑戦を続ける。

明神宏幸氏の「のこすかち」とは

最後に「のこすかち」について聞いた。

多くの人が喜びの基準がおかしくなっている。お金の為に動くようになってしまっている。やっぱり尊敬されることをせないかんし、一生懸命まっとうなことで努力する人が尊敬されないかん。

今の時代、まじめに一生懸命努力することが否定されているように思う。後は野となれ山となれで、利を求めて、ずるいことしてお金儲けて・・。そうしてお金を持っている人が持ち上げられる。それじゃいかんと思う。

欲がある事は悪いことではない。むしろ欲がないといかん。欲がないと努力しないし続かない。大義と社会性を持ったうえで、欲を持って、まともなことで一生懸命努力しないと。

すねかじって努力せず好きに生きて文句言ってる場合じゃない。文句があるなら自分で解決せないかん。

まー、人のこと言ってもしょうがない。自分は人を恨まなくていいようにしっかり立って、自分の価値観を世に問うだけよ。

大義と社会性をもって努力することに価値がある事を証明し、その価値観を残そうとしているのが明神宏幸だった。

特集のこすかち 明神宏幸インタビュー

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