【明神宏幸】藁焼き鰹たたきヒットの仕掛け人(1/4)

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のこすかち

のこすかち」は、本当の価値とは何か?我々、今の時代を生きる人間が、次世代に「のこすべきもの」は何なのか?

様々な視点から「のこすかち」を探してみたいと思いスタートした。

第一回目は、近年鰹の一本釣りで知名度を上げている明神水産株式会社(高知)の礎を築いた明神宏幸氏を取材させていただいた。

明神宏幸(みょうじんひろゆき)
昭和21年7月31日生
1986年明神水産専務取締役に就任。製造販売部を立上げ年商23億円にまで育てるも1996年解任。
同年土佐鰹水産株式会社を立上げグループ年商50億円にまで成長させるも2012年に倒産。
2013年明弘食品株式会社を立上げ現在(2016年11月)代表取締役。

波乱万丈のはじまり

高知市から西へ車で約2時間、本当に小さな小さな漁港の町、高知県幡多郡黒潮町佐賀、通称土佐佐賀。

その田舎の風景に不釣り合いな3階建ての豪邸を訪ねた。包み込むような穏やかな笑顔で迎えてくれた明神宏幸氏。

「いい格好するつもりもないし、誰かの非を取り上げて自己の正義を表現するとかそういうつもりもない、自分なりに話はするけど、その言葉がそのまま通用しないのも、人の当たり前の姿だと思うんですよね。」という独特のくだりから取材はスタートした。

あくまで自分の側から見た意見はお話しするけれども、ほかの人からすると違う意見もあってしかるべきとの前置きで、ここに宏幸氏の人柄が表れている気がした。

昭和21年、土佐佐賀の漁師明神亀次の家に6人兄弟(男4人女2人兄弟)の三男として宏幸氏が生まれる。昨今テレビなどでも取り上げられることが増えた全国屈指の鰹一本釣り漁船「明神丸」発祥の家である。

二人の兄と弟は中学を卒業すると同時に船に乗り始めるが、宏幸氏は高校、大学と進学し中央大学商学部で公認会計士を目指して勉学に励む。

しかし学生闘争でまともに勉強できる状況ではなくなり、父の声掛けもあって土佐佐賀に戻る。この頃、漁にめぐまれず必然的に乗組員への待遇は下がり、辞めていく船員も多かった。乗組員不足を補うために父の指示で宏幸氏も船に乗り漁に出た。

乗組員の仕事は多岐にわたるが、一番大事な仕事は、なぶらを見つけること。“なぶら”とは鰹が餌となるイワシなどの小魚を水面まで追いつめ捕食する際に、バシャバシャと水面が音を立てて波立つ現象を指す。

鰹から逃げるために水面ぎりぎりに小魚が浮いてくるので、それを狙った鳥がなぶらの上を飛ぶ。海の男たちは何時間でも双眼鏡をのぞきながら目印となる鳥を探し、なぶらを見つけなければ漁にならない。

視力を落としていた宏幸氏はこの一番大事な仕事で戦力になれなかった。

何かで役に立つことを示さなければ、このままでは情けない、悔しい。劣等感をかかえたまま約3年間船に乗ったあと陸に上がった。

自分の価値を示したい

まず取り組んだのは造船だった。

鰹の一本釣り漁船は、3月に地元を出港し10月か11月まで鰹を追って海の上で過ごし、地元には戻ってこない。

この約7か月間、3~7日鰹を追って漁をし、最寄りの港に寄って水揚し、すぐにまた鰹を追って沖に出ることを延々と繰り返すのである。

漁場と各地の港を何度も何度も往復することとなり、船のスピードUPはそのまま漁の効率化につながる。宏幸氏は得意の会計知識と交渉力、実行力を発揮して、銀行を説得し、融資を取り付け、最新鋭の船を建造することに力を尽くした。

結果、当時業界一のスピードを有する新船を手にした明神水産は、その戦闘力を活かして業界屈指の水揚げを記録した。当然乗組員への待遇もよくなり、腕のいい漁師が集まり、さらに水揚げを増やしていく好循環期を迎えた。

しかし宏幸氏には劣等感が残っていた。苦しい台所事情の中で、銀行とタフな交渉を行い、新船建造を実現させたものの
「とも綱とくまでは私がヒーローでも、船が出ていったら釣る兄貴や弟がヒーローになる。正直言うと俺も長嶋、王になりたかった」と当時を振り返る。
新船建造は皆に喜ばれたが、水揚げが増えるとやはり船に乗る兄弟への評価が上がるばかりで自分は蚊帳の外だった。
自分の価値を示したい。自分も認められたい。結局劣等感は拭い去れなかった。

この頃、家業に対する危機感も抱いていた。
「鰹を獲るだけではいずれ厳しくなる。」
漁師はどれだけ獲っても市場でついた値で売るしかない。不漁が続けばすぐに行き詰るし、大漁だと値段は下がる。

「何かしら手を打たなければまずい。」宏幸氏は明神水産株式会社に製造販売部を立ち上げた。


特集のこすかち 明神宏幸インタビュー

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