「目的を持って家を出る生活の大切さ」母の介護で早期退職からグランドシッターへ(60代活躍)[下書き]

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めまぐるしく変化する社会情勢の中で多彩な働き方が一般化し、「早期退職」は人生の節目を考えるキーワードのひとつとなっています。

転職や起業での早期退職、会社の早期退職募集、終身雇用制廃止による早期退職など、「早期退職」と一口に言っても理由も状況もさまざまです。

今まさに「早期退職」を考えている方、今後の状況を見ながら「早期退職」を選択肢に入れている50代・60代の方々もいらっしゃることでしょう。

では、実際に「早期退職」をした方はどんな人生を送っているのか?

部品メーカーの技術職として長年勤め、役職定年となったことを機に、母の介護に専念するため「早期退職」。その後、グランドシッターとして働きながら充実した生活を送る木村敬一さん(66歳)。

横浜市内の保育園に勤務してから今年で丸3年となり、着々とグランドシッターとしての経験を積まれています。

「グランドシッター養成講座」の様子。現役グランドシッターの木村さんも見守ります。

2月に開催された「グランドシッター養成講座」に講師の見習いとして参加していた木村さんを訪ね、「早期退職」からこれまでに至るプロセス、グランドシッターとして活躍する日々についてお話を伺いました。

介護で早期退職後、時間を持て余すように

早期退職を決めたきっかけを教えてください。
現役時代は部品メーカーで品質保証や資材調達を行うなど、技術職の部署や事務局で大変忙しい日々を過ごしていました。

58歳で役職定年を迎えたのですが、ちょうどその時に母の介護が必要になったのです。私は一人っ子ですし、父はすでに他界していましたから、必然的に母の世話は私の役目となりました。

施設ではなく在宅ケアをしてあげたいと考え、早期退職を選択しました。

退職後はお母様の介護に専念されたのですね。
そうですね。年老いた母を一人にさせたくなかったですし、退職するまでは本当に忙しい日々でしたから、一緒にゆっくりとした時間を過ごしたいと思ったのです。

でも、最初こそバタバタしましたが、慣れてくると介護だけの生活は張り合いが無いと思うようになりました。母の面倒を見ながらも、時間を持て余してしまって。

会社勤めの時は規則正しく過ごしていましたが、在宅介護では生活リズムが乱れがちになるんです。

生活のリズムが乱れるというのは?
不摂生という意味ではなく、母に合わせて生活することになったという意味です。

たとえば母が起きる時間が起床時間になりますし、食事も母に合わせて準備します。洗濯や掃除もその合間の手の空いた時間に行うなど、母の生活パータンに合わせた日々を過ごしていました。

縛りがなく自由な環境での介護生活でしたから、苦労はあまり感じなかったのですが、メリハリのない毎日になっていたと思います。

なるほど「用事はあるけど予定ではない」という感じでしょうか?
そういうことになります。生活にメリハリがなくなったことで、緊張感もなかった。朝きちんと起きてご飯を食べ、家を出て、会社で仕事をし、家に帰ってくるという生活のありがたみを感じたというか。

決まり事のない日々は楽だけど味気なくて、このままでは本当にダメだと思ったんです。

それで「何か始めたいな」「何かないかな?」と、本を読んだりネットで調べたりなどして探し始めました。

「グランドシッター養成講座」の様子。折り紙の授業で講師代行をつとめる木村さん。

待機児童問題を知ったことがきっかけ

次はこんなことがしたい等、具体的な気持ちはありましたか?
この年齢になるとみんな考えると思いますが、やはり社会貢献や人の役に立つことがしたいという気持ちは大きかったです。

社会福祉関係のことを色々調べていくうち、介護と保育に行き着きました。介護はまさに当事者でしたから、自然にもう一つの選択肢である保育に興味を持ちましたね。

当時は待機児童の問題が大きくクローズアップされていて、いつか保育の現場のチカラになれたらいいなと思っていました。

その時からグランドシッターという仕事はご存知だったのですか?
私は子どもがいないし、全く経験もありませんでしたから知りませんでした。

保育の世界に興味を持ちながらも、最初の足がかりさえない状態でどうしようかと思っていた時、あるシニアの方のブログを読んだのです。

そのブログにはグランドシッターについて書いてあり、そこで「こんな仕事もあるのか」と初めて知りました。

同時に養成講座についても紹介されていたので、そのリンクをたどって日本ワークバランスサポート協会のことを知り、武市海里理事長の生き様と考え方を拝見してとても共感したのです。

どのような部分に共感されたのですか?
「大変な保育現場を助けたい」「保育士さんの雑務を引き受ける」という目的が本当に素晴らしいなと思い、大きな感銘を受けました。

「保育現場を影からサポートできるグランドシッター」という仕事を見つけ「これだ!」と思いました。こんな社会貢献のカタチもあるんだなと思い、それからすぐに養成講座に申し込んだのです。

保育の現場には興味はありましたが、本格的に保育士の資格を取るつもりはなかったですし、もちろん簡単に取れるとも思っていませんでしたからね。

思い切って参加したことで繋がった縁

グランドシッター養成講座へ初参加した印象は?
初めて聞くこと、見ること、体験することばかり。こんなに長く生きてきたのに、知らないことだらけで本当にビックリしました。

保育の世界の奥深さに魅了されましたし、とても楽しくて終始ワクワクしていたことも覚えています。

初めて受講してから3年経ち、その後も勉強のために何度か再受講していますが、何度受講しても飽きないですし、いつも新鮮な気持ちにさせてくれる素晴らしい講座だと思います。

その後、実際に保育園へ勤務することになった流れを教えてください。
養成講座を受講してからしばらくして、母が他界しました。

葬儀の際、一人になった私を心配した叔母が「これからどうするの?」と聞いてきたので「保育関係の仕事をしてみたい」と伝えたところ、叔母がたまたま新聞で見たという「保育園の転職就職フェア」を教えてもらって。

日程のタイミングもピッタリだったので、思い切って参加してみました。

保育園の就職フェアは若い方の参加が多そうですね。
本当にそのとおりでした。たくさんの新卒の若いお嬢さんたちがズラーっと並んでいる会場で、ポツンとおじさんが一人(笑)。

男性も数えるぐらいしかいなくて、かなり目立っていたと思います。今思えば本当にすごい勇気だったなと自分で感心します。

そこで数社エントリーさせてもらい、その中の保育園からご縁をいただきました。それから3年、今も楽しく勤務させていただいております。

四季を感じながら生活できる幸せ

実際に保育園でグランドシッターとして働いて、いかがですか?
私の保育園は本当に仲が良くて、園長以下みなさんとても良くしてくださいます。もちろん、園児たちはみんな本当に可愛いです。

面接の際にもグランドシッターとしての立場をしっかり理解していただき、私に求める役割についても明確に伝えてくださいました。

入園研修もしっかりしていただきましたから不安もなくスタートできましたし、3年経った今でも不満や困ったこともありません。

保護者の立場からもそんな保育園にお世話になりたい。
私のやりたいことと保育園が私に求めることが合致していたという点もありますが、お互いの立場を理解しあっているという部分が素晴らしいと思っています。

保育園のシステムや受け入れ態勢が整っていると、働く側もみんな幸せに仕事ができるのだなと感じています。

それぞれの立場や役割を理解し合える素敵な職場ですね。
入園時からお世話になっている40歳年下の先輩、いわゆる20代の男性保育士さんなのですが、3年間いつでも優しく接してくださる頼れる先輩もいますよ。

他の保育士さんや職員さんみんな優しくて素敵な方ばかりで、日々が本当に楽しいですね。

そして何より、目的を持って家を出るという生活がどれだけ大切なことなのか痛感しています。

「目的を持って家を出る生活」とても重要なことですね。
子どもたちと一緒に、夏祭り、七夕、ハロウィンなど季節のイベントを楽しむことができる幸せを噛み締めています。節分には鬼の役、クリスマスにはサンタクロース役をやらせてもらいました。

この歳になって、こんなにも楽しく四季を感じることができるとは夢にも思っていなかったです。

「グランドシッター養成講座」の様子。とても盛り上がった絵本の読み聞かせ授業。

今後は養成講座の講師も目指したい

「グランドシッター養成講座」で折り紙の講師をされていましたね。
まだまだ勉強中です。そのために再受講させてもらいながら、今日は折り紙の授業を少しだけ手伝わせていただきました。

いずれ講師ができたらいいなと思っていますが、もっともっと勉強しなければならないですね。

講師の方々のお話は何回聞いても新しい学びがあり、いつも深い感銘を受けます。一切ブレることのない信念や理念に触れ、初心に戻って新鮮な気持ちになる。

このとても価値のある講座の一員に入れてもらえるよう頑張りたいと思います。

いつまでグランドシッターとして働きたいと考えていますか?
保育園に「辞めてください」と言われるまでです。ですから少しでも長く勤めさせていただけるよう、自分の役割、求められる仕事を精一杯こなしたいと思っています。

若い保育士さんたちを影から支えられることができ、なおかつ充実した毎日を過ごすことができることに感謝しながら、日々を大切にして生きていきたいです。

若い世代と一緒に働き、長く続けていく秘訣はありますか?
自分が前に出てはダメです。私たちの世代は、若い世代を支えるという心を持たないと、長くは続かないと思います。謙虚な気持ちを持って、若い人たちを尊重しながら行動することですね。

私の場合でいえば、影から支える用務の仕事に徹し、困っている時や頼られた時に応えるという感じです。

保育士さんという仕事は、とてもやりがいのある素晴らしい仕事だと思っています。だけど本当に忙しい。子どもたちのお世話だけでなく、記録、準備、片付けなど、ありとあらゆる業務がある。

何時間あっても足りないぐらいの忙しさを、少しでも軽減してあげることが私の役割だと思っています。

最後に、新しい仕事や分野にチャレンジを考えている50代60代の方々へ一言お願いします。
とにかく行動しよう、悩んでないで飛び込もう、ということです。

私も自ら探して養成講座を受講し、思い切って保育園就活イベントに参加したことからご縁が生まれましたからね。

前述しましたが、目的を持って家を出る生活の喜び、必要とすること・必要とされることの有り難さ、仕事での充実感は何事にも代えがたい生きがいとなります。

自分で行動しなければ何も始まりませんよね。自分の可能性を信じて、いろいろなことにチャレンジしてみてください。

( 取材・文/ ライター たなべりえ )

この記事の取材協力先

株式会社日本保育サービス

https://www.nihonhoiku.co.jp

一般社団法人 日本ワークバランスサポート協会

http://www.jwlb.or.jp

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