【FP監修 60歳からの家計簿診断】 一人暮らしの自営業、先行き不安な家計をどうしたら?

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50代・60代の定年世代は、早期退職定年退職などの働き方の変化、お子さんの巣立ち、親の介護、ライフイベントなど、これまでの生活環境が変わる節目が多い時期になります。

人生のターニングポイントを迎えた定年世代の方々は、お金の使い方についてどんなことを考えているのでしょう? また、どんな家計のやりくりをしているのでしょう?

そこで、定年世代の家計簿を見せていただき、ファイナンシャルプランナーのプロの目でチェック。家計簿の改善点をわかりやすく解説していただくとともに、今後の生活やお金に関するアドバイスも伺いました。

【ご相談内容】自営業で一人暮らし、親族も遠方。年金も国保のみなので将来がとても不安。今後の生活でなにか良いアドバイスがほしい。

お悩み

SEとして独立後も懇意にしてくれるクライアントから仕事をいただきつつ、事業拡大しないながらも楽しく過ごしてきました。昭和36年生なので年金支給開始の65歳まではこのまま細々頑張り、少しでも貯蓄を増やしておきたいと考えていますが、最近は歳のせいか、ゆっくりしたいという気持ちも大きくなっています。

しかし、自営業なので会社をたたむと一気に収入が途絶えます。独り身で親戚も遠方なので、病気や怪我になった時が心配。65歳からの年金も国保のみで少なく、今後の先行きがとても不安です。これからの生活で何か良いアドバイスはありますでしょうか?よろしくお願いいたします。  

*ファイナンシャルプランナーのアドバイス*


Yさんの家計簿の穴は…ズバリ!
「“なんとかなるだろう”という現実逃避」です。

ご相談者さまプロフィール

東京都武蔵野市にお住いのYさん
<ご主人 59歳>
・自営業(個人事業主)
・システムエンジニア(SE)として活動
・大手企業で経験を積み、39歳で独立

<家庭の状況>
* 独身・一人暮らし
* 41歳で離婚(子どもなし・慰謝料等なし)
* 2DK中古マンション(ローン残1年)
* 現在の手取り年収(所得) 約400万
* 貯蓄は約1400万円
* 自家用車あり
* 両親は他界・親戚も遠方で疎遠
* 兄弟は既婚の妹が一人。ご主人の両親と同居
* 遠方のため妹とも10年以上会っていない

東京都武蔵野市在住。JR中央本線の沿線駅から徒歩圏内のマンション住まい。大学卒業後、大手企業のSEとして活躍、40歳を目前に独立開業。以後、自営業(個人事業主)としてSEやコンサルを行ってきた。長年つきあうクライアントがいるため、現在は安定しているが、昨年体調を崩したことにより今後のことが不安になってきた。20代後半で同じ会社の後輩と結婚したが41歳で離婚。離婚後、事務所兼住居の中古マンションを購入。趣味は友人との飲み歩き、ドライブ。

Yさんの1ヶ月の家計簿

※自宅兼事務所なので住居費・光熱費・通信費等の一部は経費計算しているが、今後の生活を見越して生活費の出費として記載しています。

*住宅ローンは残り1年
*マンション購入時の価格2000万(現在の価格未定)
*光熱費は一年を通した平均値
*保険の内訳:生命保険2,000円・医療保険4,500円
*保険は会社員時代に団体加入したまま
*食事は自炊と外食の半々


収入(所得)―支出=330,000円―275,450円= +54,550円
「毎月50,000円」を貯蓄目標にしている。1ヶ月の貯蓄額は「収支(所得)―支出」で変動、出費が多かった月は貯蓄が減額となる。

【アドバイス1】「なんとかなる」思考をやめることが大切

これまで安定した収入があったため、将来への漠然とした不安を持ちながらも「まぁなんとかなるだろう」と考えてきたことだと思います。それが60歳を目前として本格的な不安に変わってきたのだと推測できます。

誰しもずっと元気に働き続けられるという保証はありません。もし突然病気になり、明日から仕事ができなくなったら、あっという間に大変なことになります。

Yさんの場合、65歳から年金生活をはじめたとして、収入は国民年金のみで一ヶ月で約7万円位と予想されます。住宅ローンを完済していたとしても、今の家計のまま生活を続けると約20万円の生活費がかかるため、コツコツ貯めた1400万円も70歳前後にはなくなってしまう計算になります。

「何もしなければお金が尽きてしまう生活」ということに気づいていながら、見て見ぬ振りをしている人がとても多いと感じます。とくにYさんのように、単身の男性は「なんとかなる」と現実逃避しがちですが、本当に怖いことです。

当然ですが、生活の改善は早ければ早い方が良いです。気持ちにゆとりのある今こそ「なんとかなる」思考を取り去り、将来についてじっくり考えてみましょう。

【アドバイス2】貯蓄や資産の把握、年金の確認を早急に!

家計の改善には、やはり現状をしっかり把握することが重要です。まずは収入の内訳、貯蓄、不動産を含めた資産すべてを正確に洗い出してみてください。不動産(マンション)の資産価値もしっかり調べておきたいところ。お住まい近くの信頼できる不動産屋さんに査定してもらうと安心です。

年金についても早急に確認してみましょう。現在59歳であれば、将来の年金の支給額はすでに出ていると思います。独立前の約 20年間の会社員時代での厚生年金も含め、正確に試算してもらってください。

また、保険についても現在の状況を確認してください。会社員時代の団体保険など、必要な保障の内容も大きく異なっていると思います。今のYさんに合った保険に見直してください。

独身で一人暮らしの場合は、医療保険の充実に重点を置いた方が良いでしょう。いずれにせよ、信頼できる保険の営業マンもしくはFPなど専門家に相談してみましょう。

【アドバイス3】キャッシュフロー表で人生設計をしよう

今ある資産と将来もらえる年金を正確に把握できれば、いつまで働けば良いのかなど将来についての展望が見えてきます。

現在の家計とこれからの希望を考えながら、ファイナンシャルプランナーに今後の人生の「キャッシュフロー表」を作成してもらいましょう。「キャッシュフロー表」では、現状の問題点や今後の課題などが一目瞭然となります。家計の問題や生活改善をするために、ぜひ検討してみてください。

キャッシュフローの分析には様々な材料が必要で、正確な「キャッシュフロー表」を作るのはとても手間がかかります。ちゃんとした「キャッシュフロー表」を作成可能な信頼できるファイナンシャルプランナーに依頼しましょう。

【アドバイス4】住み替え等、あらゆる選択肢を考えて

あらためて家計簿を見てみます。自由きままな一人暮らしを満喫されている様子が伺えますが、今後のことを考えてちょっとずつでも各項目を絞っていきましょう。

まずは固定電話の見直しを。お一人なので、必要なネット環境だけを残して携帯電話のみでも大丈夫だと思います。

食費や趣味・レジャー費、交際費も、少しずつ減らしてみてください。外食を減らして自炊する、レジャー費と交際費をそれぞれ1万円ずつ貯蓄に回すなど、苦のない程度に将来の安心のために支出をおさえてみましょう。

そのほか、下記のような選択肢も視野にいれてみてはいかがでしょう。一案・アイデアとして参考にしてみてください。

(案1)仕事引退後、現在のマンションを賃貸に出して家賃収入を得つつ、自らは単身用シェアハウスへ入居。老後を一人で生きていくよりも安心かも。同じく、マンションは賃貸に出し、家賃の安い地域へ引っ越ししてのんびり暮らす。

(案2)思い切って熟年結婚を考えてみる。例えば、お相手も不動産や資産をお持ちなら、どちらかが売却すると老後の資金が増えます。また、一人より二人の方が単純に食費などの生活費もお得になります。※相続のことなどトラブルの原因になることもあるので、もちろん慎重におすすめください。

【アドバイス5】資産運用でお金を増やす方法も

資産運用してお金を増やすことも考えてみましょう。現在59歳ならば、平均寿命の81歳までまだ20年以上もあります。「やったことないから…」と躊躇せず、働いているうちにこそ勉強しながら少しずつ始めてみましょう。

まずは「つみたてNISA」や投資信託などの簡単でわかりやすいものを少額から。間違っても貯蓄全部を使ったりしないでくださいね。

また、資産運用とともに「自らの健康への投資」もお忘れなく。こちらも元気に働いているうちにしかできない大切なことです。健康でないと、今後の人生計画も台無しになってしまいます。家計改善とともに生活改善も行って、より豊かな老後を迎えたいですね。

【アドバイス6】妹さんとコミュニケーションをとろう

いろいろと提案してきましたが、やはり親族である妹さんとコミュニケーションを取ることが何よりも大切なことだと思います。遠方にお住まいで、ご家族もあるということで疎遠になってしまうのも理解できます。

しかし、誰よりも妹さんがYさんのことを心配されているのでは?と考えます。もしもYさんが突然倒れてしまった場合には妹さんへ連絡が入ります。普段交流のない兄のことをどうすればいいのか…大きな負担をかけてしまいます。

これを機に、まずは連絡をとってみてください。近況報告を伝え合うだけでも何か進展があると思いますよ。その他、わからないことは私たちFPに気軽に聞いてくださいね。


お答えいただいた専門家

丸尾 健(まるお けん)さん

  • ファイナンシャルプランナー
  • 株式会社N&Bファイナンシャル・コンサルティング 代表取締役
  • 会社HPへ

相談業務を中心に活動している「実務家ファイナンシャルプランナー」。FPとして年間の新規面談件数は約120組、累計相談件数は1400件以上。個人から企業まで、相談者それぞれに応じたマネープランの作成、マネープランに基づいた資産形成アドバイスを行う。

(取材・文章:ライター 田鍋利恵)

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