定年世代こそ見直したい「食の大切さ」と「丁寧な食卓」

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料理家・福島さん取材

長く勤めた会社を退職したり、子供たちが就職や結婚で家を離れたり、気持ちや環境の変化が著しい定年世代。大きくライフスタイルが変化する人も多いことでしょう。

よく耳にするのは「定年退職した旦那さんが家にいるため1日3食つくるのが大変」という声や、「志向の変化で栄養面での食の見直しをしたい」と考えているなど、定年退職前後は食事の面でも大きな変化が起こる時期です。

毎日のことだからこそ楽しくありたい食事のあり方や丁寧な食卓について、あらためて見直してみるのにピッタリなタイミングではないでしょうか。

そこで定年世代の食卓について、“食卓から家族をつくる”をコンセプトに展開する料理教室「From Kitchen(フロムキッチン)」代表の福島利香さんにお話をうかがいました。

お話を聞いた専門家

福島 利香(ふくしま りか)さん

  • 株式会社オリーブ&オリーブ代表取締役
  • From Kitchen主宰

料理教室や料理イベントを手掛ける企画会社で料理家アシスタントとして勤務後、2010年「食」分野の会社を設立。数多くの料理教室やイベントの立ち上げ・企画運営に携わった経験を活かし、菓子・家電メーカーのレシピ開発、料理撮影、監修プロデュース、セミナー、プランニングなど多岐にわたって「食」に関わる活動を展開。赤ちゃん連れのお料理教室「毎日のやさしいごはん」が2013年、キッズデザイン賞を受賞。現在はFrom Kitchenのオリジナル給食レシピを保育園へ届ける「保育給食事業」にも尽力している。

料理できる定年世代を育てなきゃいけない

福島さんからご覧になって、「定年世代の食卓」を見直すとしたら、現状の課題はどういうところにあると思われますか?

ポイントは2つあると思います。

1つ目は「栄養」。
2つ目は「ライフスキル」。

まず「栄養面」について。元気な人というのはしっかり食べますよね。健啖家(けんたんか)といわれる人は、やはりパワフルで元気な印象です。

これはすべてにおいて繋がっていくことですが、家にいることが多いと体を動かさないので、お腹があまり空かないこともありますよね。

食事も軽くそうめんだけになったり、お肉やお魚などのタンパク質をとらない食事をしていると栄養のバランスも偏ってしまいます。

料理家・福島さん取材

とりあえず食べられればいいや、というのは大間違いです。栄養を取らない生活が続くと、高齢者が陥りがちな「低栄養」に繋がっていく恐れもありますからね。

また、定年世代にとって運動量が足りないのはありがちな話ですが、それには「よく動いてお腹をすかせる」ことが大切です。

動くことは食べることに繋がりますし、さらには「楽しい食卓」への道のりだと思います。いい循環の食生活に繋がるように、心がけていただきたいですね。

旦那さんの定年後「1日3食つくらなければならない」という奥さんの負担が急に大きくなるのも問題になっていますね。

そう。朝昼晩の食事をつくると、一日ずっと台所にいなくちゃいけないイメージですよね。これが原因で面倒くさくなって「昼は麺だけでいいか」と手抜きに繋がると思うんです。

今、定年退職を迎えている方々は、奥さんに家事をずっと任せてきた世代でもあります。だからこそ「料理できる定年世代をたくさん育てなきゃいけない!」と思っています。

料理って、実はライフスキルなんです。自分の身のまわりのことができるのと同じことになります。

定年後に「男の料理教室」に通う方などは素晴らしいなと思います。

ただ一つ問題なのは、旦那さんが台所に入ってきた時、奥さんがちゃんと受け入れてあげられるかどうかです。

旦那さんが台所に入ってくることで、逆にストレスになってしまう場合もあると(笑)。その場合はどうすれば?

一緒にやるしかないですよね(笑)。これは「料理・ライフステージ」の課題だと思っています。

長く連れ添った夫婦には、その都度いろんな問題が出てきます。それを一つずつ解決していくことが大切ですよね。

その問題にちゃんと向き合えば、解決方法がみえてくるし、自分も楽になる。「旦那さんが台所に入ってくるのがいや、どうしよう…」と悩まず、なるべく楽しい形になるように試行錯誤しましょう。

とにかく楽しむこと。食は楽しくないと幸せではないと思います。

料理家・福島さん取材4

食卓を囲むことで誰でも家族になれる

自分で料理をつくろうとする旦那さんに対して、台所に入りやすい雰囲気を作ってあげることも大切ですよね。

そうです!そして褒めてあげることも大切。「おいしいね」の一言ってとっても嬉しいことですよね。

料理をつくらない男性は「おいしいね」と言われることないですから「おいしい」と褒めることから始めると、だんだん関係もよくなっていくと思います。

「おいしいね」の一言が幸せな食卓をつくっていくのですね。

フロムキッチンの料理教室では、「台所から家族を作る」「食卓を囲めば家族」をコンセプトに掲げています。

今いろいろな家族の形態があると思いますが、「食を囲むことで家族になっていく」という広い捉え方で考えているんです。

たとえ夫婦2人になったとしても、これが新しい家族のカタチだと思って違う楽しみを見つけられたらいいなと。

では、福島さんが考える定年世代の丁寧な食卓について教えてください。

丁寧な食卓というと「一汁二菜」を考えてしまいますね。ご飯を炊いて、お味噌汁を作って、煮たり焼いたりした何かがあって。

毎食、完璧に栄養をとるとなるとしんどくなってしまう。1週間のスパンで「今週は野菜が少なかった」とか「来週は気をつけよう」と考えるといいと思います。

朝、昼、晩と頑張ってしまうとしんどいと思いますので、マイペースに少しずつやっていくだけでいいんです。

そういう「きちんとしたもの」を取り入れたいと考えること、どこかで摂り入れられるような食事をすることが大切だと思っています。

「一汁二菜」の日本の食卓は、実は栄養面でも理想的な形ですよね。どうしても朝はパンだけ、スーパーのお惣菜に頼るというスタイルに慣れてしまっている方も多いと思いますが、その点はいかがですか?

我が家も忙しい朝にはパンの時もありますよ。

定年後に時間があるのであれば、朝のポタージュを前の晩に作っておくとか、お味噌汁を具沢山にして作っておくとか。

え、そんなこと?というようなちょっとした工夫っていっぱいできると思います。そうすると自ずと「スーパーに行って加工品を買うよりも、自分で作ったほうが、経済的にも体にもバランスがいいよね」と変わっていきます。

この「気づき」が大事なのだと思います。

料理家・福島さん取材3

料理という「ライフスキル」をあげましょう

おかずのつくり置きなど、福島さんが工夫していることはありますか?

たくさんつくり置きすると、2日目には飽きちゃうこともありますよね。

だから私はつくり置きするよりは、「ちっちゃいおかず」をいっぱい知っている方が楽だと思います。

冷蔵庫にニンジンや大根があれば、ちょっと刻んで、炒めて「なます」にしちゃうとか。

水菜があれば3センチくらいに切って、油揚げを刻んで、ちりめんじゃこを入れて、かつおぶしを鍋にさっと入れて、醤油で味を整えて5分。美味しい一品ができます。

「つくり置き」ではなく「ちっちゃいおかず」をサッと作る。知っていれば本当に便利で幸せですね。

それが「ライフスキルをあげる」ということです。

「つくり置き」も良いのですが、作るためにたくさん材料が必要なので、その買い物も大変です。

実際に作るのも大変ですし、保管も面倒ですからね。冷蔵庫の中にある食材を使い、10分くらいでササッと作れるおかずをいっぱい知っている方が便利ですし楽チンですよ。

冷蔵庫の食材を使い切る「ライフスキル」はいいですね。これはひとつずつ覚えていくしかないですよね?

はい。でも覚えたら自分のものになります。

自転車に乗れるようになるのと同じです。始めは乗れないけれど、乗れるようになるとちょっと難しい運転もできちゃう。料理も少し覚えれば、何でも作れるようになります。

難しく考えず、お椀に直でお味噌をといて、鰹節を入れて、生姜をすり卸して飲む味噌汁でいいんです。体力のないときはこれだけでも元気なりますよ。

(お話ししながら、実際にマグカップに味噌汁をちゃちゃっとつくってくれました。生姜が効いていて体がじんわり温まります。鰹節も生姜の繊維も食べられて、こんなにおいしい味噌汁が簡単にできるなんて目からウロコでした!)

ネギをはさみで切ると、まな板も包丁も出さなくてすみますし、手軽にできます。体調が良くない時には、梅干しを入れてみたり。体の中から治していこうという食養生ですね。

「リアルな知恵」で定年後も豊かな食卓に

こうした「ライフスキル」を身につけると視界が開けますね。一杯の味噌汁で、こんなにも豊かな気持ちになれるなんて感動です。

それがおそらく「豊かな食卓」ということなのだと思います。その知識は、長く台所に立たれていた奥さんがたくさん知っていると思います。

あとは、料理教室に習いに行くという手もありますが、料理の知恵というのはレシピでは分からない部分がどうしてもあります。

やはり、「経験に基づくリアルな知恵」を教えてくれる場所はなかなか少ないと思います。

料理家・福島さん取材5

「フロムキッチン」の料理教室では、若いママたちに向けてリアルな料理の知恵を伝えているそうですね?

はい。冷やし中華のタレも自分たちでつくりますが、習ったものをそのまま使うのではなくて、各家庭の味にしていくことを奨めています。

例えば、家でつくってみて「しょっぱいね」とか「もう少し甘い方がいいかな」など、家族間のディスカッションをして欲しいんです。

それが「食卓から家族をつくる」というシチュエーションに繋がるかなと。こんな風に各家庭の味、思い出の味が出来上がっていくんですよね。

今後は、パパの料理教室、定年世代の料理教室も開催していきたいと考えています。

そうやって自分の好きな料理を自分でつくれるといった「ライフスキル」を身につけていけば、定年後も豊かな食卓になっていきますよね。

「丁寧な食卓」を学び直すにはどのような心がけが必要でしょう?

どんな食卓にしていきたいかを、夫婦やご家族でよくお互いに話し合いをし、それぞれの食卓を考えていくと良いと思います。

誰かが負担に感じてしまうのではなく、キチンと話をすること。定年世代は家族で話をすることが苦手な方もいらっしゃいますが、家事分担も見直ししてみてもいいかもしれません。

食べることは一生続きます。

少しでも大変に思ったら、お惣菜に頼るのも全然アリですよ。自分たちのこれからの食卓を自分たちでデザインしていくスタンスで、楽しみながらが一番いいと思います。

(取材・文章/敬食ライター 味原みずほ)

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