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ハローワークに2018年4月、「生涯現役支援窓口」という窓口が置かれました。「生涯現役支援窓口」は、全国180カ所のハローワークに設けられ、55歳以上の方を対象に、特に65歳以上の方の再就職などを支援しています。
今回は、「生涯現役支援窓口」が設置された経緯や目的、高齢者の再就職状況について、東京労働局の伊勢田浩二さん、廣瀧修身さんに詳しいお話を聞いてきました。
(写真左:伊勢田さん 右:廣瀧さん)
ハローワークは、会社から出された求人と、仕事を探している求職者の方とマッチングし、紹介していくのが主な業務です。
通常、求人に年齢制限はありませんが、就職に際し支援を必要とする方、例えば障害のある方や高校生などは、専門の職業相談窓口が用意されています。
「残念ながら、『社風に合うのか?』『上司の方が若い。年上は使い辛くないか?』など、会社からの不安の声が、以前は少なくありませんでした。
しかし現在は、法律で定年は最低60歳、65歳までは何らかの形で雇用を継続させるという制度の導入が定められ、ほぼ100%の会社が導入しています。
一方で、少子高齢化が進む中、団塊の世代が定年し、65歳になろうとしています。定年後も継続して雇用されることが定着してきたことプラス、60代の求職者が増えていること。これらの理由から、60代の求職者の支援対応のため、『生涯現役支援窓口』が設置されました」
少子高齢化が急激に進み、年金受給に不安を覚える人も少なくありません。一方で人手不足問題が深刻になってきており、企業支援の面でも、「生涯現役支援窓口」に期待が向けられます。
「働き手がいないと事業は継続できません。そうなれば、国全体の経済活動が活発に回らなくなります。近年言われている働き方改革は、今後の日本のあり方を含めて、そういった問題への対応の意味も含んでいます。
若者をはじめ、高齢者や障害者、女性など、企業側の受け入れ体制の問題で、今まで活かしきれていなかった、もしくは、本来の力が発揮できなかった方を活用できるように、企業側の受け入れ体制を整えて、『きちんと人を送り込む』ということも働き方改革のひとつです。さまざまな要因が絡み合って、『生涯現役支援窓口』の設置に至ったんです」
厚生労働省が命名した「生涯現役支援窓口」ですが、東京都内のハローワークでは「シニア応援コーナー」の愛称を使用しています。東京以外の地域では、別の愛称を使っているかもしれません。
55歳以上を対象としている「シニア応援コーナー」ですが、中でも65歳以上の方を重点的に支援しています。
「どうしてもこの年齢層を取りたいとか、学卒が欲しいなどといった場合はありますが、求人は年齢不問が原則です。ただ、会社によっては高齢者より若い方に来て欲しいと、年齢で断られるケースも少なくありません。
年令による差別をしている企業があれば、私たちが指導しています。一方で、業種や職種によっては、年齢にかかわらず、積極的に経験ある方を採用している会社もあります。
人手不足のため、高年齢のやる気のある方に的を絞って人を集めている企業もあります。『シニア応援コーナー』ではそういった情報を集めているので、年齢で断られることはありません。高年齢の求職者にとって探しやすく、確実に紹介できる求人を集めています」
会社側に、「高年齢者向けの求人を出してください」という働きかけも行っています。ときには、「今、御社のあの職種にぴったりと思われる求職者が来ているので、会ってもらえませんか」というマッチングもしています。
「高年齢の方は、就労の経験は豊富ですが、再就職の仕方がわからないという方もいます。学卒で勤め上げた方や久しぶりに就職活動をする方などは、今の職務経歴書やキャリアシートなど、書類の書き方がわからない方もおり、書類で上手く自己アピールできていません。書類選考が増えているため、就職活動の進め方セミナーやガイダンス、面接会などを、各ハローワークで定期的にやっています」
東京都内では、全部で16箇所に「シニア応援コーナー」が置かれました。雇用保険の手続きがなければ、管轄にこだわらず、通いやすいところに行けば一律のサービスが受けられます。その地域のシニアの求人情報や再就職に詳しい、専任の職員が対応してくれます。
「高年齢者向けの求人は、契約社員やパートは増えていますが、正社員やフルタイムとなると少ないです。60歳定年で、65歳までは契約社員で雇用継続というケースがありますが、『年金と併給できるから、お給料は定年前ほど多くは払えません』というケースが多く見られます。
今までと同じ仕事なのに、正社員から契約社員になって給料が減ってしまうと、モチベーションが落ちてしまう方もいます。
しかし、職場環境や人間関係、仕事内容が良かったなら、その職場に残る選択をしてもメリットはあります。
給料か仕事内容か職場環境か、何を優先すべきかを考えて、求職者と会社、お互いの希望がマッチするところを探すのも1つの方法です」
人手不足の深刻化から、企業側も労働力確保に待ったなしの状況になりつつあります。
「60歳以上を採用すると、給料の一部を補助する『特定求職者雇用開発助成金』という制度があります。会社にインセンティブを乗せることで、まずは採用してもらう。実際に採用してみたら良かったと、2人目、3人目の採用につながるというケースも少なくありません」
シニアを採用した企業から、他の会社にも広がっていきます。
「業界によっては、すでにシニアを活用しないと回せない状況になっています。以前はシニアを採らなかった業界も採り始めています。労働力人口は確実に減っていきます。人材確保のための工夫も、働き方改革なんです」
働き方改革のもう1つの流れが、ワークシェアリング。1つの仕事を数人で行うという、人材のスポット的な活用方法です。
「シルバー人材センターは、ワークシェアリングを採用した先駆けです。地域の労働市場から要請を受け、シルバー人材センターから人材を送り込み、現役世代をサポートします。短時間でも就労を希望する高齢者の方などには、相性がいい働き方だと思います」
自身の生活リズムや経済状況、健康状態に応じた、多様な働き方が広がってきています。
「年齢にかかわらず多様な働き方が社会に定着すれば、特別に窓口を設けなくてもいいようになるかもしれません。そのためには、企業側の意識改革も重要です。働き方も多様になるでしょう。正社員やフルタイムの働き方だけでなく、労働市場を見ながら、ご自身の希望と照らし合わせて就職活動を進めるのも良いと思います」
年齢を理由に、採用を断られた経験がある人は少なくありません。
「生涯現役支援窓口」ではそれがなく、「ここに来れば必ず求人はある」という安心感があるということは、求職者にとって大きなメリットです。
人手不足が深刻化する中、働き手が欲しい企業と、仕事が欲しい求職者。双方の希望が上手く噛み合い、どちらも幸せになれる社会になっていくことが望まれます。
その第一歩は、年齢を気にせず再就職を目指す方が一人でも増えること。年齢にかかわらず、能力のある方を採用する企業が一社でも増えることです。
高齢者向けのセミナーや面接会、就職フェアなどの情報は、厚生労働省や各ハローワークのホームページでも見られます。気になった方は、ぜひチェックしてみてください。
(取材・執筆:旦木 瑞穂)
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