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江戸時代から愛され続ける日本の伝統食「そば」。ツルツルっと小気味良い喉越し、独特の香りや風味。その美味しさだけでなく、いつでも食べられる手軽さも人気の秘訣です。
日常でなにげなく食べていますが、厄除けや験担ぎ(げんかつぎ)の場面に登場したり、行事食として重宝されていたり…など、特別な食べ物としての顔も持ち合わせています。また、近年では美容や健康にも高い効果があるとして注目されていますよね。
そんな知っているようで知らない「そば」の魅力や由来、健康パワー等について、全国のそば店・うどん店のサポートを手掛けている日本麺類業団体連合会・東京都麺類協同組合の専務理事・野澤さんにわかりやすく教えていただきました。
「そば」は江戸時代から親しまれている代表的な日本料理というのはよく知られています。おそば屋さんの発祥が江戸時代初期と言われており、その頃(安永:1772〜81年頃)から万民に食されるようになったそうです。
お店や自宅で手軽に食べることができるため、身近なイメージの強い「そば」ですが、慶事・弔事といった人生の節目などの「行事食」として特別な場所にもよく登場します。
野澤さん「そばは庶民に愛されてきた伝統的な大衆食ですが、江戸時代には“福そば”といって縁起の良い食べ物として重宝されていた側面もあります。その流れから“ハレのそば”という言葉が生まれ、今も人生の節目や慶弔の場面で使われることが多いですね」
「ハレ」とは、晴れ・霽れの意味で、冠婚葬祭や年中行事などの「非日常」のことを表します。「晴れの舞台」「晴れ着を着る」という言葉があるように、古くから日本人が大切にしてきた伝統的な世界観のひとつです。
野澤さん「例えば“ハレのそば”は、年越しそば、引越しそばがよく知られていますね。お芝居など、たくさん観客が入った時に出される大入りそばも“ハレのそば”の類です。その昔、金細工師が飛び散った金粉を集める時に練ったそば粉を使っていたそうで、金運の縁起が良いというイメージから始まったという言い伝えがあります」
また、お祝い事や節目の行事だけでなく、験担ぎ(げんかつぎ)にもよく使われるそう。赤穂浪士47人が討ち入りした『赤穂事件』では、験を担いで「手打ちそば」を食べたと言われており、今でも「討ち入りそば」として名を残しています。
野澤さん「そばの麺は切れやすい性質があり、悪い縁や厄を断ち切るという意味があります。その細く長い見た目から長寿祈願としても用いられ、それらが験を担ぐという由来だと言われています」
「そば」はお祝いやお中元などの贈り物にも人気です。最近はあまり行わなくなりましたが、引っ越し時にそばを配ったり、振る舞ったりする「引越しそば」も知られていますよね。
野澤さん「今も続いている地域はありますが、昔は引っ越してきた時、向こう三軒両隣へ挨拶がわりにお蕎麦を配る風習がありました。“そば”の語呂合わせで“末長く側(そば)においてください”という意味が込められています。また“細く長く(末長く)お付き合いをお願いします”という願いもあります」
「そば」といえば「年越しそば」をはずせません。歳取りそば、大年そば、大晦日そば、とも呼ばれ、江戸時代中期から受け継がれてきた日本の伝統食です。
昔ながらの風習の多くが廃れていく中で、今も脈々と受け継がれている食文化ですが「なぜ大晦日にそばを食べるのか」という意味をちゃんと説明できる人は少ないかもしれません。
野澤さん「一年の厄落としと健康長寿を願い、キリ良く年を締めくくるために食べるのが“年越しそば”です。前述しましたが、そばは細く長い形状と切れやすい特徴から縁起物とされています。最近、年越しに違う麺類を食べておられる人を見受けますが、“年越しにはそば”の意味を知ってもらえると嬉しいですね」
「そばは健康や美容に良い!」「そばは太りにくい」と書籍やテレビ等で見たことがあると思います。なんとなく体に良さそうなイメージはありますが、実際に何が良くて、どんな効果があるのでしょう?
野澤さん「まさしく“そば”は身近な健康食といえます。まず、牛乳の栄養に匹敵する良質な植物性タンパク質が豊富に含まれています。それから、血液をサラサラにする効果があるルチン、リノール酸、ビタミンEもたっぷり含まれているので、毛細血管を丈夫にし、血圧を下げたり動脈硬化を防いだりする働きもあります」
その他、必須アミノ酸、体を作るビタミンB群、胃を修復する働きがあるナイアシン、さらには肝臓に脂肪がつくことを防ぐ働きがあるコリンも含まれているそう。それら良質な栄養素をたっぷり含んでいるため、健康パワーだけでなく代謝もアップし、脂肪燃焼を促して美容効果やダイエット効果も期待できるというわけです。
また、そばの茹で汁には、前述のルチンがたっぷり溶け出していますので、美容と健康のために食後には「そば湯」もしっかり味わってくださいね。
宗派や地域にもよりますが、お寺の周りや寺町周辺には、おそば屋さんが多くあります。なぜなのか、気になっていた人も多いのではないでしょうか。
野澤さん「お寺さんとそばには、切っても切れない深い関係があります。僧侶の方々は荒業の際、五穀を断ち切って修行をされますよね。実はこの五穀には、そばは含まれていません。つまり、僧侶の方々にとって、そばは修行中の貴重な栄養源になるのです」
五穀とは、米・麦・あわ・きび・豆です。仏教や修験道の修行のひとつ「穀断ち(こくだち)」は、五穀を食さず身を清廉する意味があります。五穀が食べられない中、そばを口にできるのはとてもありがたいですよね。ですから、僧侶にはそば好きやそば通がとても多いそうです。
野澤さん「そのような流れから、お寺で檀家さんなどにそばを振る舞うことが多くなり、寺内でいただくそばを“寺方そば”と呼ぶようになりました。さらに、それが門前町や寺町へと広がっていき、寺の周辺におそば屋さんが立ち並ぶようになったわけです。これを“門前そば”と呼びます」
門前そばで有名なところは、東京都の深大寺、長野県の善光寺、福井県の永平寺、滋賀県の延暦寺などがあります。そのほかにも全国各地に門前そばがありますので、チェックしてみてください。
野澤さん「そばは収穫の時期によって名称が変わります。春に種を蒔いて夏に収穫するそばを“夏そば”、夏に種を蒔いて秋に収穫したものを“秋そば”といわれています。一般的に“夏そば”は初物、“秋そば”は新そばと呼ばれます。“秋そば”は“夏そば”に比べて色や味、香りが優れているとされ、そば通の人は“秋そば”を好んで食べられます。ですから、そばの旬は夏から秋にかけての時期です」
今は技術が進み、そばの実の収穫後も保存状態が良いため、あまり大差はないそうですが、昔は収穫から半年以上経ったそばの実で作られたそばは味が落ちてしまうため、収穫直後のそばの実で作ったそばが重宝されたとのこと。
野澤さん「今は一年中どこでも食べることができますが、旬があることを知りながらいただくことも粋な食べ方だと思います。やはり、収穫したてのそばの風味は格別なので、機会があればぜひ味わってほしいです。健康と美容によく、美味しくて手軽に食べられるおそばの魅力を再発見していただけると嬉しいですね」
手軽で美味しいだけじゃない、栄養価にも優れていて健康や美容にも効果大。さらに、厄落としや験担ぎにもなる縁起の良い「そば」。日本が誇る素晴らしい伝統食をたくさん食べて、末長く後世に語り継いでいきましょう。
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