60歳から始める「趣味としてのビールの世界」後編/ビアライター富江弘幸

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【この記事を書いた専門家】 富江 弘幸(とみえ ひろゆき)さん

1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経てビアライターとして活動中。一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会主宰のビアジャーナリストアカデミーにて講師も務める。

ビールの楽しみ方はひとつではない

さまざまな味わいのビールが選べるということは、楽しみ方もさまざまです。では、ビールはどう楽しめばいいのでしょうか。ビールはゴクゴクとのどごしを楽しむだけではありません。どう楽しめばいいか、その考え方について紹介しましょう。

ビールに対する固定観念を捨てると楽しめる

「とりあえずビール」「のどごし」「麦芽100%」などといった、ビールに対する固定観念は捨ててみましょう。もちろんこれらを否定するわけではなく、のどこしを楽しむのもひとつの楽しみ方ですし、麦芽100%で造られたビールもおいしいものです。

しかし、アルコール度数が10%近くにもなるビールはのどごしを楽しむものではありませんし、オレンジピールやコリアンダーを使ったベルギーの伝統的なビールは麦芽100%ではありません。固定観念に捉われてしまうと、それらのビールを楽しむことができなくなってしまいます。

固定観念を捨てるまでいかなくても、自分の中のビール観を少し変えてみるだけで、ビールの世界は広がってくるはずです。

ビールは多様性のあるお酒

また、ここまで何度もビールは多様性のあるお酒だと書いてきましたが、実は味わいや造り方による分類(ビアスタイル)は100以上もあるといわれています。銘柄ではなく分類ですので、ひとつのビアスタイルにいくつもの銘柄があると考えると、とてつもない数のビールが存在することになります。

そのビアスタイルの中には、上述のように苦いビール、甘いビール、酸っぱいビール、ハイアルコールのビールなどがあり、造り方もさまざま。ワインやウイスキーの樽で熟成させるといった造り方をするビールもあります。

自分がおいしいと思うビールを好きな飲み方で

ビールにはこれだけ味の幅があるので、当然のことながら好き嫌いもあるでしょう。甘いビールならカクテルのように飲めるけど、苦いビールは無理とか、やっぱりいつもゴクゴク飲んでいるビールが一番、という人もいるはずです。

もちろん、好きなビールを好きなように飲めばいいですし、無理して好みでない味わいのビールを飲む必要はありません。しかし、味の幅があるということは、好きな味わいがいつか見つかるともいえるのではないでしょうか。

味わいに合わせてチビチビと飲んだり、スイーツと合わせてみたり、何年も寝かせてみたりと、楽しみ方はそのビールの数以上にあります。自分が好きなビールを探して、自分なりの楽しみ方も見つけてみましょう。

代表的なビアスタイル5種類

では、具体的にどんな味わいのビールがあるのか、紹介していきましょう。代表的なビアスタイルと購入しやすい銘柄について解説します。

ピルスナー

ピルスナーとはチェコが発祥のビアスタイルで、大手ビールの「キリン 一番搾り」「アサヒスーパードライ」「サッポロ生ビール黒ラベル」「サントリー ザ・プレミアム・モルツ」もピルスナーに分類されます。

日本はもちろん世界で最も飲まれているビアスタイルで、ビールといって連想されるのがピルスナーだといえるでしょう。

<ピルスナー・ウルケル>
ピルスナーというビアスタイルの元祖がピルスナー・ウルケル。1842年にチェコのピルゼンで誕生し、ピルスナーは世界へと広まっていきました。今でも、トリプルデコクションという手間のかかる伝統的な醸造方法で造られています。

◆ ピルスナー・ウルケル(330ml×24本)

IPA(インディア・ペールエール)

クラフトビール人気を牽引しているともいえるのがIPA。大航海時代にイギリスから植民地のインドまでビールを運ぶ際、ビールが腐敗しないように抗菌作用のあるホップを大量に加えたことが起源といわれています。

ホップはビールの苦味と香りのもととなるため、IPAはとても苦いのが特徴。味わいのバランスをとるために、甘味やアルコール度数も強めにしています。

<インドの青鬼>
「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイングのIPA。スーパーやコンビニでも買うことができ、日本では最も入手しやすいIPAだともいえるかもしれません。しっかりした苦味と、柑橘系の香りが特徴です。


◆インドの青鬼(350ml×24本)

ホワイトエール

ベルギーが発祥の小麦を使ったビールです。ベルジャンホワイトエールとも。白濁した色合いで白ビールともいわれますが、特徴はコリアンダーとオレンジピールを使っていること。これらの風味と、軽い酸味が心地よい味わいを造り出しています。

苦味はほとんどないので、ビールの苦味が得意でないという人でももしかしたらおいしく飲めるかもしれません。

<常陸野ネストビール ホワイトエール>
茨城県にある木内酒造が造る常陸野ネストビールのホワイトエール。一般的なホワイトエールに使われるコリアンダー、オレンジピールに加え、ナツメグなどのスパイスも使用しています。フルーティーな香りとなめらかな口当たりが特徴です。

◆常陸野ネストビール ホワイトエール 瓶(330ml×3本)

スタウト

スタウトはいわゆる黒ビールで、ローストした大麦を使用することでその色合いを出しています。見た目から重そうな味わいにも思えますが、軽い口当たりから重いものまでさまざまです。大麦をローストしてあるため、コーヒーやチョコレートを思わせるフレーバーが特徴。

<ギネス オリジナルエクストラスタウト>
スタウトの代表的銘柄。ビターチョコレートのようなフレーバーがありながら、軽い口当たりが特徴。炭酸も強くないため、なめらかで違和感なく口に入ってきます。ロースト感のある料理と合わせて楽しむのもいいでしょう。

◆ギネス オリジナルエクストラスタウト 瓶(330ml)

スペシャルビール

スペシャルビールとは、既存のビアスタイルには当てはめられない種類のビールです。特別なビールだということではなく、分類しにくいビールといったほうが正しいかもしれません。中には日本酒酵母やワイン酵母を使用したビールや、その土地の農産物を使用したビールなどがあります。

< COEDO紅赤 -Beniaka->
埼玉県のコエドブルワリーによる川越の特産品のさつまいもを使ったビール。傷ついたり、規格外だったりする理由で流通にのせられないさつまいもを買い取り、焼きいもにして醸造に使用しています。さつまいもの風味は強くなく、ビールとしてのバランスをしっかりとっている味わいです。
◆COEDO 紅赤 -Beniaka-(333ml×6本)

ちょっと変わったビールの楽しみ方

ゴクゴク飲んで、料理を流し込むだけがビールの楽しみ方ではありません。ビールの種類だけでなく、その楽しみ方も紹介しましょう。

スタウトにバニラアイスを組み合わせる

代表的な黒ビールであるスタウトには、甘い味わいの食べ物がよく合います。コーヒーやチョコレートと同じように、ローストの風味は甘味との相性がいいのです。

例えば、バニラアイスと合わせてみてください。

スタウトを注いだグラスにバニラアイスを乗せてフロートにしてみてもいいですし、バニラアイスの上にスタウトをかけてアフォガートのようにしてみてもいいでしょう。これまでのビールとは違った楽しみ方ができるはずです。

ビールを寝かせて楽しむ

一般的なビールは鮮度が重要です。できたてのビールをできるだけ早いうちに飲むほうが、基本的にはおいしいとされています。ただ、中にはそうでないビールもあり、ワインやウイスキーのように長期間寝かせることで、味わいの変化を楽しむことができます。

特にベルギービールには賞味期限が20年近くあるものもあり、寝かせていくと徐々に丸みのある味わいに変化していきます。すべてのビールが寝かせられるわけではないので、ご注意を。

楽しみ方としては、記念日に購入して寝かせておき、10年後の記念日に飲むといったこともできます。10年前のビールと今のビールを飲み比べるのもおもしろいかもしれません。

さまざまな味わいをさまざまな楽しみ方で

ビールにはさまざまな味わいがあるということをご理解いただけたでしょうか。さまざまな味わいがあるからこそ、楽しみ方もさまざま。

ビールについての固定観念を少しだけでも取り払ってみると、それが広大なビールの世界への入り口となることでしょう。

大人の嗜みとして、また趣味のひとつとして、ビールを楽しんでみてください。


(執筆・構成:ビアライター 富江弘幸)

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