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クラフトビールという言葉を聞いたことはあるでしょうか。
最近はクラフトビールがスーパーやコンビニで販売されていたり、クラフトビール専門店が増えてきたりと、その認知度が高まってきています。しかし、クラフトビールがどんなビールなのかは、意外と知らない人が多いのです。
では、クラフトビールはどんなビールなのでしょうか。また、ビールはどんな楽しみ方があるのでしょうか。ビールの魅力について紹介したいと思います。
1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経てビアライターとして活動中。一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会主宰のビアジャーナリストアカデミーにて講師も務める。
ビールといえば居酒屋で1杯目に注文するものというイメージが強いかもしれません。「とりあえずビール」という言葉に代表されるように、銘柄をあまり気にせず注文して、ひとまずゴクゴク飲むお酒という感じでしょうか。
しかし、最近は若者のビール離れが叫ばれています。実際、日本のビール市場は1994年から減少傾向にあります。その一方で、クラフトビール市場に限っていえば、消費量は伸びてきているのです。
ビール離れの要因にはさまざまありますが、ひとつには、好きなお酒を好きなように飲むという意識が広がってきたということがあるかもしれません。選択肢が少なかった昔と比べると、ビールや日本酒、ワイン、ウイスキー以外にも多くの種類のお酒が選べるようになりました。
また、お酒の種類が増えたように、ビール自体の種類も増えました。その増えた種類の多くが、いわゆるクラフトビールといわれるものです。種類が増えると、ビールへの向き合い方も変わります。
「とりあえずビール」から「違いを楽しむビール」へと変わってきているのです。
酔うために飲むのではなく、その多種多様な味わいや造られた背景、醸造家の思いなども楽しむ、大人の趣味としてのビール。そんな楽しみ方ができる時代になりました。
思っているよりも実はかなり奥深いビールの世界を、趣味として少しのぞいてみてはいかがでしょうか。
では、昔のビールと今のビールは何が違うのかを説明していきましょう。簡単にいえば、選択肢が増えたということです。
ビールといえば大手ビール。キリンビール、アサヒビール、サッポロビール、サントリーの4社に加え、オリオンビールが大手といわれるビール会社です。ビール業界は新規参入のハードルが高すぎて、大手ビール会社のビールしか飲めない時代が続いていました。
それが変わったのが1994年。酒税法が改正されて、小規模醸造所が造れるようになり、1998年くらいをピークとして、小規模醸造所が増えていきました。これが地ビールブームです。
地ビールブームはほどなく去ってしまいましたが、2000年代になるとクラフトビールが人気になってきます。
地ビールとクラフトビールは何が違うのかということについては後述しますが、ビールの味わいの多様性という意味では共通しています。地ビールブームは終わってしまったものの、「ビールは黄金色でゴクゴクとのどごしを楽しむもの」という固定観念を少し壊すことができたといえるでしょう。
今では、のどごしを楽しむだけでなく、苦いビール、甘いビール、さらには酸っぱいビール、ハイアルコールのビールなど、さまざまな味わいのビールが選べるようになっています。
さまざまな味のビールが選べるということは、ビールの造り方に多様性があるということ。現在は、日本全国に400以上の醸造所があるといわれており、その土地の農産物を使ったビールも多く生まれています。
例えば、川越のさつまいも、長野のりんご、神奈川のオレンジなどを使ったビールがあります。中には、味には問題ないものの、傷がついたり、規格が合わなかったりする農産物をビールの原料として使用しているものも。
農家としては、これまでは収入にならなかった農産物で収入を得ることができ、醸造所はその土地でしか造れないビールとして売ることができる。そうやって地域の活性化につなげているビールもあるのです。
現在の日本のビール事情を理解していただいたところで、クラフトビールについて説明しましょう。
「クラフトビールはクセがある」とか「クラフトビールは味が濃い」といったことを聞くことがあります。しかし、これはあまり適切ではありません。クラフトビールとは味わいを表す言葉ではないからです。
クラフトビールという言葉は、アメリカで生まれたものです。あまりにも工業化、画一化してしまった大手ビールに対して、ビールの多様性を取り戻そうというムーブメントがクラフトビールの始まりでした。
ある意味で、大手ビールに対するアンチテーゼだといえるでしょう。
もともと、ビールは多様性のあるお酒です。ドイツやベルギー、イギリス、チェコなど、ヨーロッパのビール発祥国の伝統的なビールは、その地域の特色が表れた多様性のあるものだったのです。
そういったこともあり、クラフトビールは小規模であるということも前提のひとつとなっていきました。
前述の通り、日本では1994年から地ビールが誕生しました。地ビールブームは終わってしまいましたが、その後アメリカからクラフトビールという言葉が入ってきたときに、小規模で多様性のあるビールというイメージが共通していたため、「地ビール=クラフトビール」という認識が主流になっていったのです。
しかし、そもそも地ビールとクラフトビールはその経緯が異なります。地ビールは酒税法改正によって生まれたもの、クラフトビールはビール文化を取り戻そうというものでした。
また、地ビールブームの頃はドイツスタイルのビールが多く、クラフトビールはアメリカに影響を受けたビールが多くなっています。
実際に飲むときは「これは地ビールなのか、クラフトビールなのか」といったことを気にする必要はありませんが、その経緯を知っておくのもおもしろいかもしれません。
クラフトビールとは味わいを表す言葉ではないと書きましたが、実は日本ではクラフトビールの定義があいまいなのです。
全国地ビール醸造者協議会(JBA)は、クラフトビールを地ビールと同一として、次のように定義しています。簡単に紹介しましょう。
• 大手ビールから独立していること
• 小規模であること
• 伝統的、個性的で地域に根付いていること
しかし、大手ビールもいわゆるクラフトビールといっているビールを販売しています。また、ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」というビールには「クラフトビール」と書かれていますが、ヤッホーブルーイングはキリンビールと資本提携しています。
これらはクラフトビールといえないのでしょうか。そういった矛盾を抱えているため、日本ではクラフトビールの定義はないに等しいといってもいいでしょう。
しかし、「クラフトビールの定義は…」などと議論するよりも、目の前のビールをどう楽しむかのほうが重要だとも思います。クラフトビール云々ではなく、自分が好きなビールかどうか。まずは、そのビールそのものを楽しみましょう。
では、さまざまな味のビールが味わえる現在、ビールはどんな楽しみ方ができるのでしょうか。
「後編」では、ビールを楽しむ考え方やビールの種類について紹介します。
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